2023年1月26日、トヨタは豊田章男社長が会長になり、佐藤恒治執行役員が次期社長に就く人事を発表した。
豊田章男氏が社長に就任したのはリーマンショックによる赤字転落の直後。その後も世界規模でのリコール問題、東日本大震災、さらにはコロナ禍など苦難の連続だった。
そんな中、2018年、豊田章男社長は、ラスベガスで開催されたCESで自動運転技術を活用したモビリティサービス専用次世代EV（電気自動車）「e-Palette Concept」を発表。さらに2年後の2020年には、同年末に閉鎖予定だったトヨタ自動車東日本株式会社 東富士工場（静岡県裾野市）の跡地を利用した「Woven City」というコネクティッド・シティプロジェクトをぶち上げたのであった。
てっきり、Woven Cityの完成を見届けるまで社長職を続けていくのかと思いきや、内山田竹志会長が退任することを受けて、佐藤恒治氏が新社長に就任することになった。
トヨタイムズの動画配信で、豊田章男社長の「私自身は、どこまでいっても『クルマ屋』です。クルマ屋だからこそ、トヨタの変革を進めることができたと思います。しかし、『クルマ屋を超えられない』。それが私の限界でもあると思います。佐藤新社長を軸とする新チームのミッションは、トヨタをモビリティ・カンパニーにフルモデルチェンジすることです」という言葉が印象的であった。
「クルマ屋を超えられない」という、メディアが見出しにつけたくてウズウズしたくなる台詞を吐くのが豊田章男社長らしい。
それを受けて、佐藤新社長は「トヨタのあり方を「クルマ」という形で示していきたい。そう思っています。操る楽しさを追求したクルマや移動を支えるクルマ。そして、これからのクルマは、モビリティへと大きく進化してまいります。その中で、クルマの本質的な価値を守り、新しいモビリティの形を提案していきたいと思っています。新チームでは『継承と進化』をテーマに、創業の理念を大切にしながら『商品と地域を軸にした経営』を実践し、モビリティ・カンパニーへのフルモデルチェンジに取り組んでまいります」と、バトンを引き継いだ。
これまで何度も、様々な企業で社長交代会見を取材してきたが、やはり大企業の社長が代わるというのは「時代が変わる」タイミングでもあるような気がしている。
例えば、KDDIで、田中孝司社長から現在の髙橋誠新社長に代わった際には「田中社長はスマホの時代、これから5Gの時代は髙橋新社長が適任」ということで、バトンタッチされた感がある。
「田中プロ」を自称する田中社長はデバイスが大好きなオタクで、まさにスマホが普及する時代にぴったりの社長であった。しかし、通信業界は5Gに突入する中、これからはスマホ単体と言うよりも様々なモノが通信を行い、サービスを提供し、エンゲージメント（深い関係性を持つこと）を強化していく方向になる。そこでEZウェブ時代にコンテンツなど様々な業種や企業に顔が利いていた髙橋誠氏が社長に適任ということになったわけだ。昨年、KDDIは大規模な通信障害を起こしたが、技術のわかる髙橋社長が謝罪会見に登壇したことで、同社の危機を救った感がある。
また、ソフトバンクも、宮内謙社長から宮川潤一新社長になる際も、「営業のソフトバンク」から「技術のソフトバンク」に移行するというメッセージが強かった。
5G時代に、基地局などにサーバーを置く「MEC」などが競争軸となる中、ADSLの構築から3G、4G、さらにはアメリカ・スプリントの立て直しに尽力し、ネットワークに精通した宮川氏に白羽の矢が立ったのであった。
自動車業界は、これからは「クルマ」ではなく「モビリティ」として、あらゆるものと通信を行い、新しいサービスを生み出していく。
その変化にいち早く気づき、トヨタをモビリティカンパニーにしようと尽力していた豊田章男社長でさえも、トヨタをフルモデルチェンジするには時間が足りなかったということでもある。
佐藤新社長はレクサスなどを手がけてきたエンジニア出身だ。
これから本格化する5Gやモビリティ時代に向けて通信屋やクルマ屋を超えるには「技術がわかる社長」が不可欠ということなのかも知れない。
