スペイン・バルセロナで開催されたMWC22。今回の取材で「そう来たか」と納得されられたのがコネクテッドカーの世界だ。
いまから5年ほど前のMWCでは、コネクテッドカーの取材として、MWC会場から1時間ほどのところにある、F1スペインGPも開催されるカタロニアサーキットに出向き、コネクテッドカーの実験を取材したことがあった。
C-V2X対応のアウディに乗り、前を走行するクルマが赤信号で止まれば、その情報が自分の乗っているクルマに届く。また、前を走っているカメラが撮影している映像を、自分のクルマのメーターパネルに表示するといったデモが行われた。クルマ同士が通信をすれば、それぞれの状況が手に取るようにわかる。車車間通信が実現するとこんなに便利で安全という世界観が示されたのだ。ただ、一方で、街中を走る多くのクルマが通信機能を備え、それぞれがクルマが自律的に通信するようになるのは、どれくらい年数がかかるのか、さっぱり予想ができなかった。こういった世界観を実現するには、世界に数多くあるクルマメーカーが手を取り合う必要があるし、お互いが合意した規格に対応したクルマを開発し、売っていかなければならない。そうしたクルマが街中に当たり前のように走行することで、初めて、前を走行するクルマの情報が、自分のクルマに届くようになるわけだ。
今回のMWCで5GAAというクルマメーカーやキャリア、通信関連メーカーが参加する業界団体でのイベントに参加した。
様々な企業のプレゼンを聞いてみると「車車間通信」の話はほとんどなく、もっぱら、RSU(Roadside Unit)とクルマが通信するソリューションでの説明が圧倒的であったのだ。
RSUにはカメラやLiDarセンサーが搭載され、交差点や道路などの状況をセンシングしている。クルマが近づいてくる、あるいは犬や子どもが道路を飛び出してくるといった時にはRSUから周辺のクルマに警告などが飛ぶようになっている。
5G SAによるネットワークスライシングにより、安定した低遅延のHD映像をクルマに送るといったことを話す企業もあった。
やはり、クルマにC-V2X対応のモジュールを載せ、利便性をあげようとしても、すべてのクルマがC-V2X対応しないことには意味がなく、メリットも感じられない。クルマメーカーとしても、すぐに利便性を得られない機能を載せようとは思わないだろう。
しかし、街中にある信号機や街灯に設置されたRSUとクルマが通信するとなれば、ビジネスチャンスは早期に訪れるかも知れない。街中を走るクルマのなかで、ごく一部のクルマが通信に対応するだけでも、運転する側はメリットが得られる座組だ。
RSUを導入するのは、「スマートシティ」に向けた取り組みが中心になることから自治体になってくるだろう。税金から予算が付けば、RSUは普及しやすい。
C-V2X対応のモジュールを高級車が搭載することで、ユーザーは限られるが「安全になるならお金をいくらでも払いたい」というターゲットにマッチしてくる。
車車間通信だけでは、誰もお金を出さないが、クルマと街の通信であれば、お金が出てくると5GAAは考えたのではないだろうか。
日本では一部のクルマメーカーの考え方が、5GAAとはそぐわないようで、C-V2Xはなかなか普及しそうにない。
コネクテッドカーの世界でも、かつてのケータイのようなガラパゴスになってしまわないか、心配でならないのだ。
メルマガ「石川 温のスマホ業界新聞」2022年3月5日号より転載