NTT、交通信号なし・事故なし・滞留なし「シグナルフリーモビリティ」実現に向けて前進

日本電信電話は、信号機を使わないモビリティ実現に向けた全体最適制御のための技術を確立しました。

現在の信号機を使った交通制御では、信号待ち、合流、一時停止等の要因で慢性的な渋滞を引き起こしていました。IOWNにより実現する世界のコンセプトとして、信号機のない街を自動運転車が相互に通信をしながら自律走行し、車同士が衝突せず、全体の移動時間を短縮する未来のモビリティの姿、「シグナルフリーモビリティ」を示しています。

シグナルフリーモビリティでは、車群から収集したデータをデジタルツインでリアルタイムに解析し、車同士が衝突せず移動時間を短縮する交通全体の最適状態(各車の速度や位置)を予測して交通を制御します。

今回、デジタルツインを介して10-20台の自動運転ミニカーを制御するシステムを構築し、実環境で交通をリアルタイムに全体最適制御する実験に成功しました。今後、交通制御実験の規模を拡大し、より実世界の交通に近い状況の実証実験を展開していくことで、IOWNの実現を推進していきます。


1. 研究の背景

将来、ICTの高度化により、ヒト・クルマ・インフラが高度に協調し、安全かつ効率な移動を提供する高度協調型モビリティ社会の実現が期待されています。IOWNにより究極に高度化されたICTがもたらすモビリティ社会のコンセプトとして、信号機のない街を自動運転車群が相互に通信をしながら自律走行し、衝突することなく輸送時間を短縮する未来のモビリティの姿、「シグナルフリーモビリティ」を示しています(図1)。

NTTはこれまでに、シグナルフリーモビリティにおける車の状態予測のための分散演算則と交通制御の数値シミュレーションの結果を示して参りました。今回新たに、デジタルツインを介して、10-20台の自動運転ミニカーをリアルタイムに制御するシステムを構築し、実環境で交通をリアルタイムに全体最適制御する実験に成功したことで、IOWNのめざすシグナルフリーモビリティ実現に向けて大きく進展しました。

2.技術のポイント/特徴

シグナルフリーモビリティでは、車群から収集したデータをデジタルツインで解析し、衝突することなく輸送時間を短縮するための交通全体の最適状態(各車の速度や位置)を予測して制御します。このデジタルツイン上の状態予測系のモデル化、及びデータ駆動型でそのモデル学習する方式を確立することが研究課題のメインです。本研究では、図2に示すように、各車(ノード、黄色の頂点で表示)とそのつながり(エッジ、緑色の辺で表示)で構成されるグラフを用いて、デジタルツインの状態予測系をモデル化しました。時々刻々と変化する複雑な交通制御を単純な部品(各車の状態予測/制御と近接車間の通信)の組み合わせで表現することがその狙いです。

2.1 デジタルツインにおける状態予測演算

次に、車の状態予測に関するデジタルツインの演算について説明します。図3に、実世界システムとデジタルツインが相互にフィードバックしながら、車群の最適状態(速度や位置)の予測と制御を時系列的に発展させるイメージが描かれています。
 状態予測に至るまでのデジタルツインの演算は複数ステップに分かれています。デジタルツイン上では、実世界で収集されたデータ(周囲状況を模した画像データ等)を蓄積し、一定以上の車間距離を保つように斥力を課すための情報を計算して近接車間の通信を介して交換されます。その情報を使って衝突せずに目的地点に近づくための各車の状態を予測します。
 なお、この一連の処理(前向き伝播)は、各車で実施可能な分散型の演算と近接した車間の通信を繰り返すことで実施できるように設計されています。演算や通信といった処理が分散化されたネットワーク負荷の少ないIoT機器群の協調制御を体現しました。
 さらに、状態予測系に含まれる学習可能なパラメータを最適化することで、平均速度を向上させるような効率的な交通制御モデルを学習できます(後向き伝播)。
 なお、この2種類のフロー(前向き伝播、後向き伝播)は、常微分方程式(ODE)※2で表現されていて、それを各車の演算や近接車間の通信によって実施できるように分散化することで特殊なニューラルネットワーク(CoordiNet)として定義し、デジタルツインの演算を具体化しました。

2.2 シグナルフリーモビリティのシステム構築

提案方式(CoordiNet)を使って実装したシグナルフリーモビリティのシステムは、図4に示すように予測/制御フェーズとモデル訓練フェーズの2つで構成されます。モデル訓練フェーズでは、デジタルツイン上で多様な交通状況を想定したシミュレーションを多数回実施し、交通制御モデルを最適化します。実世界にある道路だけでなく、仮想空間上に構築した道路に、車の台数や初期位置を変えて配置してシミュレーションを行うことで、多様な交通状況を模したデータ収集を可能にします。このデータを使って交通制御モデルを学習することにより、多様な交通状況でも衝突せずに効率良く走行することが期待されます。なお、このモデル訓練フェーズは、膨大な計算量を必要とするため、非リアルタイム(数時間~1日)に行われます。一方、予測/制御フェーズでは、学習済の交通制御モデルを使って、デジタルツインとフィードバックしながら実世界の交通を制御します。構築したシステムでは、リアルタイム(おおよそ0.1-0.2秒ごと)に各車の状態予測と制御が行われました。

2.3 実験結果

モデル訓練フェーズ(図4右)における実験結果の一部を図5に示します。提案方式(CoordiNet)では、シミュレーションを繰り返すとともに安定して平均速度が向上しました。最大値が1.0になるように速度を正規化した評価実験で、ランダムに初期化した学習前の時点では0.64であったのに対して、学習後には0.90まで向上しました。これは、シミュレーションを介したデータ収集により、交通制御モデルの学習を効率的に進めることができた恩恵だと考えられます。一方、状態遷移に斥力を課さない一般的なニューラルネットワークや交通シミュレーター(SUMO※3)を比較方式として性能を調査しました。学習可能な方式については提案法と同様にシミュレーションを介して学習しました。例えばグラフニューラルネットワークの一種であるGAT※4を用いた場合、車が衝突してしまったり、平均速度が安定して向上しませんでした。また、交通シミュレータ(SUMO)を用いた場合は、衝突することはなかったものの、交差点手前で停滞する状況が頻繁に起きてしまい、提案方式ほどの平均速度は得られませんでした。

学習後の交通制御モデルを使って、予測/制御フェーズ(図4左)を実施するためのシステムを構築しました。図6に示すように、各自動運転ミニカーには、位置情報を計測するためのビーコン、計算するためのGPU、Wi-Fi通信モジュール、左右独立に制御可能なモーターが搭載されています。Wi-Fiを介してサーバーや他の車と通信し、衝突せずに全体の輸送時間を短縮する状態をデジタルツインで予測し、10-20台の自動運転ミニカーをリアルタイム(おおよそ0.1-0.2秒ごと)に制御することができました。これによりデジタルツインで予測された状態のように、現実世界で衝突することなく、スムーズに走行している様子を実験的に確認しました。

3.今後の展開

デジタルツインを介して10-20台の自動運転ミニカーを制御するシステムを構築し、実世界で全体最適制御を行う実験に成功しました。今後、この交通制御実験の規模を拡大し、より実世界の交通に近い状況の実証実験を展開していく予定です。IOWNにおけるデジタルツインコンピューティングを支える分散情報処理技術として、今後も研究開発を推進していきます。

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MobiliTech編集部

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