ANAは20年蜜月だった「FeliCa」でのスキップサービスをやめて、「ANA Smart Travel」でQRコードに統一したワケ

▲プレゼンを行う全日本空輸(ANA)代表取締役社長 井上慎一氏

ANAがスマートフォンをベースとした新しいサービス「ANA Smart Travel」を発表しました。旅行の計画や航空券の予約だけでなく、機内食の選択や渡航先での交通手段の案内など、ANAを使った旅行に関して、まとめて管理・利用できるサービス&アプリになっています。

もちろんオンラインチェックインから非接触のシステムを使った搭乗も、この「ANA Smart Travel」で行えます。筆者として注目したいのが、非接触システムが「QRコード」に統一され、約20年ANAで使われてきた「FeliCa」と決別したことです。

これまでANAでは「スキップサービス」を導入していました。これは事前に予約・購入・座席指定を済ませていた場合、チェックインカウンターや自動チェックイン機に立ち寄らなくても、直接保安検査場へ行けるサービスです。

利用できるのはFeliCaを搭載したICカード付きのクレジットカードや、スマートフォン。そしてQRコードでも対応可能です。

スキップサービスが便利なのは、このFeliCaを使った認証ができること。QRコードはスマートフォンの画面などに表示するか、印刷してそれを読み込ませる必要があります。一方FeliCaの場合はスマートフォンならスリープを解除せずともかざすだけでOK。クレジットカードもやはりかざすだけです。国内線のビジネス需要が多い路線では、搭乗口でクレジットカードをかざすビジネスマンもよく見かけます。

発表会ではANAの井上社長が「ワンタップ、ツータップでチェックインでき、搭乗もQRコードをかざすだけ」と、今回のANA Smart Travelについて解説していましたが、FeliCaを使ったスキップサービスなら、タップしてチェックインする必要はなく、スマートフォンに表示したり印刷する手間もありません。

▲新しいサービスではワンタップで簡単に搭乗できることをアピール

非接触の認証システムとしては、QRコードよりも便利で、20年近く提携してきたFeliCaをなぜ今回非対応としたのか。それは発表会で井上社長が大きく打ち出していた「自動チェックイン機の全廃」に関係しているところが大きいと筆者は見ています。

スキップサービスをFeliCaで使う場合、前述のようにIC機能付きのクレジットカードかFeliCa搭載(おサイフケータイ対応)のスマートフォンが必要です。クレジットカードは子どもは作れませんし、スマートフォンもiPhoneは7以降のモデルでFeliCaが搭載されましたが、Androidもオープンマーケット版では非搭載のものが多い状況。すべての人が使えるという状況ではありません。

また、スキップサービスの場合、個人に紐付いているため家族旅行などの場合には、結局チェックイン作業が必要となり、それぞれの搭乗券を印刷するといった手間もかかります。

今回ANAが打ち出した「自動チェックイン機の全廃」を推進するためには、ほぼすべての人がスマートフォンを使ってオンラインチェックインできるようにする必要があります。そのためには、利用できる人が限定されるシステムは使えないわけです。

一方、新しい「ANA Smart Travel」では、家族それぞれのQRコードを1台のスマートフォンに表示して、搭乗時のチェックなどに使えるとのこと。またアプリをインストールしなくても、ウェブブラウザーからのアクセスでもQRコードの表示などは可能。なのでアプリをインストールしたくない人や、HarmonyOSユーザーも利用できます。

担当者に話をきくと、「スキップサービスは、その名のとおりチェックインをスキップしてもらうよう設計したサービス」と説明しており、さらに「ANA Smart Travelはすべての人がスマートフォンを使ってオンラインチェックインしてもらえるよう設計したサービス」と話しています。

スキップサービスは、対象者が活用すると便利なサービスです。ただし外国からの旅行者や飛行機に乗る機会があまり多くない人も含めて、すべての人がオンラインチェックインを行い、スムーズに搭乗できるようにするには、やはり現在のグローバルスタンダートとなっているQRコードを使ったシステムのほうが、なにかと都合がいいわけです。

ちなみに、現在搭乗時などでスマートフォンでQRコードを機器にかざそうとすると、FeliCa(NFC)のリーダーが反応してしまい、スマートフォンの表示が切り替わって認識させられないというケースもありますが、これもFeliCaの読み込みをやめることで解消できそうです。

現在FeliCaを使ってスキップサービスを利用している人には、やや後退なシステム切り替えですが、全国の空港に設置している自動チェックイン機の購入やメンテンナスの費用を考えると、かなりのコストダウンが期待できそうです。

またあくまでも「自動チェックイン機の全廃」であって、有人カウンターが撤廃されるわけではありません。これまどおりスマートフォンが使えない人や、手伝いが必要な人のために有人カウンターは残ります。

▲現場での係員も残るが、今後はロボットやアバターも活用

また荷物の機内預けについては、自動手荷物預け機(ANA BAGGAGE DROP)自体が大きく、設備も大がかりになるため、小さな空港への導入はなかなか厳しいとのこと。これも有人カウンターで対応するケースはまだまだ多くなりそうです。

ANA以外の航空会社でも、各種サービスの提供はスマートフォンを使ったものに切り替わっています。たとえばカタール航空では機内食のメニューが配布されず、スマートフォンなどで機内Wi-Fiにつないで閲覧する方法になっていました。

飛行機を使った旅行にはスマートフォンはかかせないアイテムというのが、今後さらに進んでいきそうです。

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中山 智/Satoru NAKAYAMA

海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。

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