ホンダとアストンマーチン、今季F1への展望を語る

2026年1月20日、本田技研工業(Honda)は、アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラワン・チーム(Aston Martin Aramco Formula One Team)との新たなパートナーシップの始動を正式に宣言した。

2026年シーズンから導入される大規模なレギュレーション変更を見据え、両社は「真のワークスパートナーシップ」のもと、世界の頂点を目指すことになる。

ホンダの原点と新時代の挑戦:三部社長の決意

ホンダのF1参戦の歴史は1964年に遡る。四輪車の販売を開始して間もない時期に世界最高峰のレースへ挑んだその姿勢は、創業者・本田宗一郎が掲げた「世界一にこだわれ」「最も困難なものへ挑戦せよ」という精神そのものであった。三部社長はこの歴史的背景に触れつつ、2026年からの参戦が単なる復帰ではなく、技術的な必然性を伴った新たな挑戦であることを強調した。

「2026年、F1は車体とPU(パワーユニット)の両面で大きなレギュレーションの変革を迎えます。PUでは、電動出力が従来の約3倍となり、内燃機関にはサステナブル燃料の使用が義務付けられ、F1は『電動技術』と『脱炭素』両方に挑む次世代モータースポーツへと進化します」。

ホンダにとって、この「電動化」と「脱炭素」というテーマは、企業としての技術戦略と完全に合致するものである。三部氏は、この新時代のF1を「挑戦と先進性の象徴」と位置づけ、レース運営子会社であるHRC(ホンダ・レーシング)が開発した新型PU「RA626H」を投入することを明言した。

また、今回の参戦に際して、F1マシンには新たなデザインの「Hマーク」が掲げられることが発表された。これはホンダの四輪事業の変革を象徴するものであり、F1だけでなく、次世代EVなどにも適用される予定だという。さらに、F1で培われた技術はサーキットの中だけに留まらない。三部氏は、F1由来の技術を搭載した「CIVIC TYPE R HRC Concept」をベースとした市販モデルの投入や、高効率燃焼、バッテリー技術、高速回転技術などが、空のモビリティであるeVTOL(電動垂直離着陸機)や航空機エンジンにも応用されている事実に言及した。

「Hondaは、F1技術を起点に、陸・海・空・宇宙といった多様なモビリティ分野で技術革新を推進し、モビリティの進化と持続可能な社会の実現に貢献していきます」。三部氏のこの言葉からは、F1参戦がホンダの技術エコシステム全体を牽引するエンジンであることが窺える。

F1市場の拡大とサステナビリティ:ドメニカリCEOの期待

F1グループのステファノ・ドメニカリCEOは、ホンダの復帰とアストンマーティンとの提携を「レース界にとって非常にエキサイティングな節目」と歓迎。ドメニカリ氏は、F1と日本の深い関係性について触れ、昨年の鈴鹿サーキット(日本グランプリ)に26万6千人が来場し、日本の視聴者数が前年比26%増を記録するなど、日本市場におけるF1人気が急速に再燃している現状を指摘した。

「現在、日本には約1700万人のF1ファンがおり(中略)、Hondaの復帰は、日本市場におけるF1の成長ポテンシャルをさらに後押しするものです」。

また、ドメニカリ氏はF1が世界で8億2700万人以上のファンを抱え、文化やエンターテインメントの領域にまで影響力を拡大している現状を紹介した上で、2026年のレギュレーション変更の重要性を説いた。

「今回、車体とPUの双方が刷新され、F1史上最大規模の見直しが行われます。パフォーマンスを損なうことなく、先進的なサステナブル燃料で作動する、よりシンプルなハイブリッドエンジンが導入される予定です」。

F1は2030年のネットゼロ達成を目標に掲げており、すでに2024年末までに2018年比で26%の二酸化炭素排出削減を達成しているという。ドメニカリ氏は、ホンダとアストンマーティンのサステナビリティへの取り組みへの共感を示し、技術革新に向けた協業に期待を寄せた。

「真のワークスパートナーシップ」への自信:ストロール会長

アストンマーティン・アラムコ・フォーミュラワン・チームのエグゼクティブ・チェアマンであるローレンス・ストロール氏は、ホンダとの提携がチームにとって決定的な転換点であることを強調した。

「2026年から私たちはHondaと真のワークスパートナーシップを結びます。これは、シャシーとPUを一つのパッケージとして設計・開発することを意味し、チャンピオンシップ獲得という目標にとって極めて重要な一歩です」。

ストロール氏は、英国シルバーストーンに新設されたテクノロジーセンターや新しい風洞設備、建設中のデータセンターなど、チームのインフラ強化が順調に進んでいることを報告した[8]。さらに、燃料を提供するアラムコ(Aramco)、潤滑油を提供するヴァルヴォリン(Valvoline)といった強力なパートナーとの連携に加え、ホンダのPU開発拠点であるHRC Sakuraとの強固な協力関係についても言及した[2]。

「我々の英国拠点とHRC Sakuraとの強固な連携は、私たちのパートナーシップの深さを物語っています。私たちには、勝利を掴むために必要なすべての要素が揃っていると確信しています」。

ストロール氏はまた、チーフストラテジーオフィサーとしてアンディ・コーウェル氏が重要な役割を担っていることにも触れ、技術面・組織面での体制が万全であることをアピールした。最後に彼は日本のファンに対し、「勝利を目指すこの挑戦の旅に、ぜひ参加してください」と呼びかけ、新たな歴史を築く決意を示した。

勝利への渇望と共有される価値観

三部社長が語った「挑戦のすばらしさ」、ドメニカリCEOが示した「サステナビリティとエンターテインメントの融合」、そしてストロール会長が確信する「勝利への要素」。これら三者の言葉からは、2026年に向けた準備が着実に、そして熱量を持って進められていることが伝わってくる。

かつてホンダは、ウィリアムズやマクラーレンと共に黄金時代を築き、近年ではレッドブル・レーシングと共に頂点に立った。そして今、アストンマーティンという新たなパートナーと共に、新デザインのHマークを掲げたマシンで再びスターティンググリッドに並ぼうとしている。2026年、鈴鹿サーキットのスタンドを埋め尽くすファンの前で、どのようなドラマが生まれるのか。ホンダとアストンマーティンの「真のワークス」としての挑戦が、今まさに始動したのである。

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石川 温/Tsutsumu ISHIKAWA

月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜午後8時20分からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radiko、ポッドキャストでも配信)。NHKのEテレで「趣味どきっ! はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。近著に「未来IT図解 これからの5Gビジネス」(エムディエヌコーポレーション)がある。ニコニコチャンネルにてメルマガ(https://ch.nicovideo.jp/226)も配信。

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