「EV導入」だけでは終わらない。ANAといすゞが羽田・新千歳で挑む“データ主導”の脱炭素戦略

ANAは羽田空港と新千歳空港にいすゞの「エルフEV」を導入

今回は、2026年2月18日に羽田空港で行われた、ANAといすゞ自動車による記者発表会の様子をレポートします。テーマは「空港ではたらくクルマ」のEV化。一見地味に見えるかもしれませんが、実はここ、テクノロジーとデータ活用の最前線なんです。

空港の足元で進む「脱炭素」のリアル

私たちが飛行機に乗るとき、窓の外で荷物を運んだり、機体を誘導したりする車両を見かけますよね。あれは「GSE(航空機地上支援機材)」と呼ばれています。ANAグループは2050年のCO2排出量実質ゼロを掲げていますが、空を飛ぶ飛行機だけでなく、この「地上の足」の脱炭素化も急務となっています。

実はANAグループ、全国で約1,000台ものトラックベースの作業車両を保有しているのですが、そのうち6割以上がいすゞ自動車製。長年の信頼関係があるこの両社がタッグを組み、今回、EVトラックの活用検証に関するパートナーシップを締結しました。

なぜ「ただ導入する」だけではダメなのか?

「EVトラックなんて買ってくれば終わりじゃないの?」と思うかもしれません。しかし、空港という環境は特殊です。

まず、絶対にオペレーションを止めてはいけないというプレッシャーがあります。ANAの担当者は、充電のために稼働できない時間が増えることや、災害時(停電時)のBCP(事業継続計画)の観点を課題として挙げていました。万が一バッテリー切れで動けなくなったら、飛行機の定時運航に影響しかねないからです。

そこで今回のパートナーシップの肝となるのが、「データの可視化と解析」です。 単に車両を置き換えるのではなく、車両の稼働データを取得し、経済合理性と環境目標を両立できる「運用モデル」を作り上げようとしています。

羽田と新千歳、過酷な環境での「実証実験」

今回導入されるのは、いすゞのBEV(バッテリーEV)トラック「エルフEV」をベースにしたカーゴトラック(手荷物運搬車)です。

導入台数は3台。その配置が非常に面白い。

  • 羽田空港(2台): 24時間眠らない過密空港での高稼働運用。
  • 新千歳空港(1台): 寒冷地かつ降雪という、EVにとって最も厳しい環境下でのバッテリー性能検証。

いすゞ自動車の担当者も強調していましたが、乗用車のEVと違い、商用車は「使われ方」が多種多様です。特に空港は広大で、どこに充電器(ポート)を置くのが最適なのか、バッテリー容量はどれくらいがコスト的に見合うのか、といった「解」がまだ定まっていません。

今回の実証では、実際に現場で使い倒すことで得られるリアルなデータをもとに、バッテリーの交換タイミングや最適な充電インフラの配置などを検証していくそうです。まさに「走る実験室」ですね。

EV一辺倒ではない「マルチパスウェイ」の視点

私が今回の発表で特に共感したのは、両社が「すべてをEVにする」とは言っていない点です。 ANAの保有する車両には、機内食を運ぶフードローダーのような大型車(15〜20トン級)もあります。これらを今の電池技術だけで動かすのは難しい。

いすゞ自動車は「マルチパスウェイ(全方位)」戦略を掲げており、FCV(燃料電池車)やバッテリー交換式、あるいはCN(カーボンニュートラル)燃料など、用途に応じた選択肢を持っています。 今回の提携は2030年までを見据えたものであり、まずは小型トラックのEV化から始めつつ、将来的には大型車も含めた最適な脱炭素ポートフォリオを組んでいく狙いがあります。

旅の途中で見つけたい「青いプラグ」のデザイン

最後に、トラベルライターとして注目したいのが車両のデザインです。 今回導入されるEVトラックには特別なラッピングが施されています。ANAのコーポレートカラーであるブルーと、いすゞのレッド、そして飛行機とトラックがプラグでつながっているようなデザインが描かれています。

トラックの天井部分にもコンセントの絵が描かれており、ターミナルの窓から見下ろしたときに「あ、EVだ!」と分かるような遊び心も隠されています。

2月18日から運用が開始されます。次に羽田や新千歳を利用する際は、ぜひ窓の外を眺めてみてください。そこには、日本の空の玄関口を「データと技術」で支える、静かで力強い相棒が走っているはずです。

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中山 智/Satoru NAKAYAMA

海外取材の合間に世界を旅しながら記事執筆を続けるノマド系テクニカルライター。雑誌・週刊アスキーの編集記者を経て独立。IT、特に通信業界やスマートフォンなどのモバイル系のテクノロジーを中心に取材・執筆活動を続けている。

-中山智『旅ゆけばMaaS』