地上を移動する自動車のエネルギーは電気や水素の応用が進んでいますが、宇宙の移動にも新しいエネルギーの採用が始まろうとしています。日本のベンチャーPale Blue(株式会社ペールブルー)は2022年1月にラスベガスで開催のCES 2023で小型衛星向けに水を使ったエンジンの展示を行いました。
Pale Blueは東大大学院で超小型衛星用推進機の研究開発を行っていた浅川純 代表取締役CEOが2020年に立ち上げたベンチャー企業。同社は需要が高まっている50-100kgの小型人工衛星向けの水推進エンジンの開発・事業化を進めています。小型人工衛星には大型人工衛星と同じ推進機の搭載は体積やコストの問題で搭載は難しく、推進機を搭載しないものが多くあります。つまりエンジンが無く慣性で宇宙を飛んでいるため起動や軌道修正ができません。そのため長期運用や軌道離脱をさせることができず、デブリと呼ばれる宇宙ゴミを発生させる原因にもなります。
Pale Blueの水推進エンジンは高圧ガスや有害物を推進剤として使用せず、また衛星需要の高まりによる推進剤の供給不足やコストアップに対抗できる推進機として、世界的に注目を集めています。国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)との協業も行っており、水推進機の実テストや海外展開などを進め、すでに日本の衛星ではいくつかの採用例があるとのこと。また海外でも同社の水推進機の採用が決まっているとのことです。
CES 2023で展示された同社の水推進機は、水蒸気を使うタイプ 2機種と水ミストを使うタイプ 1機種。推進機に水タンクがあり、その中に水を注入して動作します。極寒の宇宙空間で水蒸気を発生させるため、水タンクが凍らないような完全密閉構造を取るなど地上でのエンジン開発とは異なる技術が必要になるとのこと。なお水推進機には水タンクが内蔵されていますが、現時点では水を後から注入する構造にはなっていません。密閉性を考えてそのような構造になっているのでしょうが、将来は注水機能を追加することも検討しているとのことです。たとえば月や火星には水の存在が期待できるため「月面に一旦着地させ、現地で水を回収し推進機の水タンクに注入する」ことができれば、推進機をさらに長期間稼働させることができるようになるでしょう。
ところで推進機のエネルギーに水を使うとなると、一般的な推進剤よりパワーダウンは避けられません。しかし推進力は2/3に落ちる程度で十分実用的なレベルとのこと。また1度の給水でどれくらいの期間推進力を保てるかですが、展示されていた真ん中の推進機では300mlの水タンクがあり、これを使うことで「1年で寿命が来る人工衛星の寿命を2倍の2年程度まで伸ばすことができる」(浅川CEO)とのこと。
水推進機は地球上で豊富に安価で入手ができ、また爆発や汚染の心配も無いクリーンな水をエネルギーとして使用します。いずれ人類が宇宙へ本格的に進出するときは、宇宙開発もSDGsを考慮する時代が来るでしょう。Pale Blueは宇宙開発のSDGsを推進する第一人者と言えるのです。